日本囲碁界のニューリーダーの1人、張栩七段の活躍が注目を集めている。今春NHK杯囲碁トーナメントで初出場、初優勝を成し遂げ、5月にスタートした国際棋戦の「春蘭杯」もベスト8に進出している。本因坊、棋聖の両リーグに在籍し、読みが深く、形勢判断に明るい張栩流の碁が全開しそうな勢い。昨年の本因坊戦に続くタイトル戦登場も近そうだ。
(聞き手は日本経済新聞社文化部 松本治人)
――5月上旬から北京に滞在し、テレビアジア選手権、春蘭杯と国際棋戦を連続して打ちました。
テレビアジア選手権は負けてしまったのですが、春蘭杯では1回戦を彭景華さん(台湾)、2回戦を兪斌九段(中国)と戦って、ベスト8に残ることができました。準々決勝は年末です。日本勢では羽根直樹天元、結城聡九段と合計3人ですね。
ただこの2局は、どちらも内容的には不満が残ります。1回戦はいきなりツブレに近い形勢になってしまいました。最後は彭さんのミスで救われた形です。2回戦の兪斌九段との碁は、1回戦に比べるとマアマア(笑)。それでも反省する点があります。まだまだ弱い、と思いました。
――国際棋戦を戦うコツは何ですか。
特別なことはありませんが、(中国ルールの)7目半のコミは重いという実感はあります。やはり黒の負担は大きいですね。序盤から仕掛けて、戦いになりやすい。1局1局微妙な問題になりますが、持ち時間も3時間なので、国内の5時間の碁とは質が全然違ってくるということもあります。
あと細かいことですが、対局開始の時間と昼食時間が微妙に違うことも案外影響しますね。日本棋院では朝10時に開始して午前11時45分から45分間の休憩に入ります。国際棋戦では午前9時に始めて12時とか午後1時半に休み。当然ながら休憩前までに国際棋戦の方が局面が進み、半分くらい打ってしまって今が勝負所、といった場面もあります。精神的なペース配分を考えることが必要です。
――北京では中国棋院でも打ったとか。
今回の遠征は、実はそれが楽しみでした(笑)。テレビアジア選手権から春蘭杯まで日時があったので、年齢がだいたい似通った中国の若手4、5人と30局くらい早碁を打ってきました。対戦成績は少し勝ち越したくらいかな。いい刺激になりました。オフの時は卓球をしたり、買い物も。北京の街は近代化が急速に進んでちょっと驚きでした。日本で買えて北京でも買えないものはない感じで、人出などは日本よりにぎやかな印象でした。
――NHK杯の優勝から好調さを持続しています。
しばらく花粉症に悩まされていましたが、だいぶ良くなったせいでしょうか(笑)。最近は「一生懸命打っているからうまくいく」とプラス思考で考えるようにしています。NHK杯は選考基準が厳しくてなかなか出られなかっただけに、優勝はうれしいです。
昨年は本因坊戦挑戦、竜星戦決勝まで行ったけれど、最後で勝てなかった。そろそろ何かで優勝したい(笑)とは思っていました。山下敬吾七段を追いかけているので、準決勝の1局は印象に残っています。早い碁は比較的自信のある方ですが、楽な碁は1局もなかったです。持ち時間は30秒あれば直感で打てます。打てないときはスランプの時です。
――日ごろの研究はどうしていますか。
ネットで早碁を打ったり、研究会に出たり。ネットの碁は朝一番とか夜中に打っています。高尾紳路七段たちとの初台研究会は、移転して市ケ谷研究会になっています(笑)。週に1回は必ず集まりますね。私も手合いのあとに寄っています。自分の碁を並べ返したり、その週の大きな碁を皆で検討し合ったり、早碁を打ったりという活動です。
――師匠の林海峯九段が「読みが鋭く、形勢判断の明るい」という張栩流の碁が全開している印象です
自分の碁はよく分かりません(笑)。いろいろ碁の質が変わっているのではないでしょうか。少し時間の使い方はうまくなったかな? 理想は「戦わずして勝つ」で、戦う碁風ではないのですが、結構頑張ってしまう。
――詰め碁も有名です。
最初は解く方が好きだったのですが。特に時間を決めて作るのではなく、適当に石を転がして、詰め碁の形を作っていきます。見た瞬間に「きれい」と思われるような形の美しさ、シンプルさ、筋の良さを追求していきたいと思っています。将来はプロ棋士に読まれるような作品集を出したいと思っているのですが、何年先になるか、分かりません。
――今年の目標はタイトル戦でしょう。
まず残留を目指さないと(笑)。昨年の本因坊戦は自信になりました。1手1手手応えを感じながら1局ずつ一生懸命打っていきたいです。体力はあまり自信ないのですが、スポーツする時間もあまりない(笑)。時々市ケ谷の日本棋院から自宅まで歩いて帰るくらいですが、これが40分程度かかって意外にいい運動になっています。
張 栩七段(ちょう・う) 1980年台北市出身。林海峯九段に入門し、90年日本棋院院生。94年入段。2000年棋聖戦、本因坊両リーグに入る。昨年、王本因坊に挑戦したが3勝4敗で敗れる。今年NHK杯優勝。 |