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 山下敬吾棋聖に聞く
    囲い合いより力碁、戦って負けるなら納得

   「これから若手四天王の時代が来るのは間違いないが、ひょっとすると一気に“山下一強時代”になる可能性もある」――。あるベテラン棋士の「予想」だ。山下敬吾棋聖(24)、張栩本因坊(23)、羽根直樹天元(27)、高尾紳路八段(26)が「四天王」と呼ばれるが、その中でも中心になるのが山下棋聖と見られている。実際、棋聖位奪取の後も勢いは衰えず、9月からは名人戦七番勝負の挑戦者として依田紀基名人に挑む。まだ顔には、小学2年生で「小学生名人」になった時の面影が残るが、話しぶりには第一人者としての風格さえ漂いはじめた。目下「世界最強」と言われる韓国の李昌鎬九段についても「かなわない相手とは思わなかった」と言い切る若きタイトルホルダーは、あまり物事に動じないタイプの人間に見えた。
(聞き手は日本経済新聞社文化部編集委員 木村 亮)


――今年は8月末現在で勝率8割超。対局数そのものは前年より減っていますが、相変わらずの勝ちっぷりです。

 昨年は毎週1局以上のペースで対局していましたが、今年は様変わり。タイトルを獲ると、他の棋戦も含めてかなり予選が免除されるので対局数は減っています。楽といえば楽ですが、あまり対局しない週が続くのもちょっと…という感じです。

――緑星学園(菊池康郎氏主宰)での勉強が相変わらず中心ですか。

 昨年、棋聖戦に挑戦したあたりから緑星に行くペースは減っています。それも秋山(次郎)八段、溝上(知親)七段らと持ち回りで子供たちの勉強会の面倒を見る時だけで、月に2−3回でしょうか。名人戦(七番勝負)が始まるとそれも行けなくなります。碁の勉強は家で自分で並べて研究するぐらい。(プロ棋士同士の)研究会にもあまり参加していません。

――最近はパソコンを駆使して勉強する棋士も多いようですが。

 パソコンはどうも苦手です。クリックしたりするのがうまくいかず、以前はインターネット対局をするのに、画面を指差してほかの人にクリックしてもらったこともありました。今、自宅にはパソコンはありません。最近はパソコンで国際棋戦をしたりする時代になっているので、いずれはやらなければ…と思っているのですが。

――碁聖戦、棋聖戦とタイトル戦を経験してきましたが、雰囲気にはだいぶ慣れてきましたか。

 最初は(報道陣の)カメラの数が多くて、少し緊張しました。ただ、全体的にはすんなり入り込めたという感じです。棋聖戦の場合、2日制で打ちかけの夜に眠れない人もいるようですが、私はそうでもなかった。プレッシャーもありますが、意外に平常心でやれたという印象はあります。

――名人戦への挑戦も決まりました。天元戦では挑戦者決定戦への進出も決まっています。

 名人リーグは全勝でしたが、張栩本因坊に勝って挑戦者になることが決まり、ようやく実感がわいてきたという感じです。ただ、2局目の王立誠戦、3局目の柳時熏戦と、悪そうな碁を逆転で勝てて、「ツキがあるな」とは思いました。天元戦トーナメントも含め、それぞれの碁の内容はあまり覚えていません。過ぎたことは忘れてしまう方なので…。

――独特の「厚い」碁という印象がありますが、これは子供のころから?

 小さいころから攻めて石を取りにいくのが好きでした。ただ、ずっとそうだったわけではなく、一時は「地の碁」を試したこともありました。自分に合った碁をいろいろ試してみて、今はやはり力戦型の碁になっています。少々苦しくても力で何とかしてしまうような――。低段のころは道策や、力碁で知られる丈和の碁をよく並べていました。

 ただ、「厚みの碁」というのとは少し違います。以前憧れていた武宮(正樹)先生のように厚みを生かして戦うのが「厚みの碁」とするならば、私の場合は厚くなくても戦ってしまうケースも多い。安全な道を選びたくとも、形勢判断ができないのでそれができないのです。

 いろいろな先生がおっしゃる「半目いい」というのも私にはよく分からないし、終局後、「途中、悪かったでしょ」と言われて「え、どこで?」ということも多い。形勢判断の仕方がほかの人とは違うのかもしれません。いずれにしろ、戦って負けるのは仕方がない、囲い合いで負けるのはつらいという風に思っていますので、どうしても「戦いの碁」になってしまいます。

 一時期、初手を天元に打ったり、5の五に打ったりしましたが、最近はやっていません。一時、トップの先生と当たるようになったころ、普通に小目に打っててもダメかなと思って試したのですが、今はあまり良い手とは思っておらず、布石に決まったパターンもありません。黒(先手)か白(後手)か、どちらが好きかという点についても、あえて言えば黒かなという程度で、あまりこだわりはありません。

――若手四天王の他の3人についてはどういう印象ですか。

 張本因坊は形勢判断がしっかりしていて、良くなったら絶対に逃がさないという感じです。手がよく見える人で、その点では少し負けているかもしれない。羽根天元は落ち着いた碁で計算がしっかりしている。高尾八段は手厚い碁だと思います。

 羽根天元にも高尾八段にも少し勝ち越しているようですが、高尾八段の方はプロになって最初のころに勝ったものの、最近は結構やられていて、あまり勝ち越しているという実感はありません。3人ともプロになってからの対局だけなので、緑星時代に数え切れないほど打った溝上七段などに比べると、棋風などはあまり分かっていません。

――ここ数年、日本勢の旗色が悪い国際棋戦での活躍が期待されています。

 これから(国際棋戦に)出る機会も増えると思いますので、大いに頑張りたいと思います。ただ、私自身、ほとんど実績はない。最近では昨年の世界王座戦(トヨタ&デンソー杯)ぐらいでしょうか。結局、李昌鎬九段(韓国)と当たって敗れてしまいました。もっとも、打っていて全然かなわないという感じはありませんでした。次に打つ機会があれば頑張りたいと思っています。

 韓国の若手棋士は層が厚く、よく勉強していることは確かです。特に序盤についてはかなり深く研究している。ただ、私は過去に誰かが打ったのと同じように打つのは好きではないし、ある程度研究された形でも多分、途中で変化してしまうと思います。碁はそんなに狭いものではないと考えています。国際棋戦は持ち時間3時間という制約もあり、普段の研究は大事ですが、それだけで打てるものでもないでしょう。

――海外対局となると体力的にも大変だと思います。健康管理はどのように?

 勝ち続けると一つの棋戦で何度も海外へ行くようなケースもあり、結構大変だと思いますが、今のところ体力的には自信があります。運動不足になりがちなので、時たま歩くようにはしていますし、独り暮らしで外食が多いので野菜を多く食べるようにはしていますが、あまり神経質には考えていません。

 一晩寝ればイヤなことも忘れてしまう方なので、気分転換のために何かをするということもありません。当面は毎日、よく寝て、名人戦に臨みたいと思います。



山下 敬吾(やました・けいご)
 1978年(昭和53年)9月6日生まれ。旭川市出身。緑星学園を主宰する菊池康郎氏に師事。93年入段、同年二段、95年三段、96年四段、97年五段、98年六段、2000年七段。98年新人王戦で優勝、2001年まで4連覇。2000年碁聖戦で小林光一碁聖を破り初タイトル。2003年、棋聖戦で王立誠棋聖を破り棋聖位獲得。2000年度の棋道賞・優秀棋士賞など受賞多数。


 
[2003年9月3日 掲載]

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