注目の棋士に本音を聞き、その素顔を探る「会見ルーム」。第8回のゲストは蘇耀国七段(24)。2003年は第28期新人王戦で優勝、年間43勝12敗という好成績が買われて、第37回棋道賞・新人賞にも輝いた。勝率7割8分2厘は全棋士で文句なしのトップである。張栩王座・本因坊(24)ら同世代の若手棋士の台頭が目立つ中、さぞかし強気のコメントが聞かれると思ってインタビューに臨んだが、出てくるのは「まだまだ力不足。多く勝てたのもたまたま」という謙虚な言葉ばかり。「勉強不足」でこの成績を残している人が、本気で勉強したらどうなるのか。まだまだ多くの可能性を秘めた24歳である。
(聞き手は日本経済新聞社文化部編集委員 木村 亮)
――棋道賞・新人賞の受賞、おめでとうございます。
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| 新人王の賞状を手に笑顔の蘇耀国七段。左は師匠の敖立テイ四段(2003年11月25日、日本青年館) |
(新人賞の受賞は)とても有り難いことですが、力がそんなに伸びていないうえに、新人王戦を除けばさほど活躍できていないのが現実です。 勝っているとはいっても、たまたま。自分の力不足をいつも実感しています。
――そうは言っても、8割近い勝率は運だけで達成できるものではないはず。
内容の悪い碁が多すぎます。偶然、勝っているだけ。勉強量が足りないのが原因です。張栩王座や高尾紳路八段、山田規三生八段らの勉強ぶりを見ていると、熱意がすごい。見習わなければいけないが、なかなかできません。
――具体的な勉強法は?
以前は林海峰先生(名誉天元)の御自宅での研究会などに顔を出したりしていましたが、最近はもっぱら家で棋譜を並べることが多い。ただ、1−2時間やって、すぐにやめてしまったり、一日中、何もしないこともある。時折、1週間ぐらい真面目に勉強することもあるが、それ以上は長続きしない。張王座らの勉強を見ていると、途切れることがないし、感心するばかりです。
もっとも、練習対局は以前より結構好きになりました。最近は何局でも打てる感じです。ネット対局も時たまやっています。
――碁はいつごろから始めたのですか。
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| 勝率トップの成績を挙げながら「まだまだ力不足」と謙虚 |
(中国・広東省広州市で育った)6歳のころです。一人っ子でしたが、両親とも碁は打ちませんでした。碁より先に知ったのがマージャンで、5歳で覚えてしまいました。マージャン好きの父親の影響でしたが、母親がさすがに「早すぎる」と怒り、代わりのゲームとして中国将棋やチェス、囲碁のセットを買ってきました。この中で囲碁にハマッてしまった格好です。 最初は独学でしたが、そのうち親が地元広州でアマ5段ぐらいの先生を探してきたので、その人に教わりました。初めに教わる時、「好きなだけ石を置いていい」と言われ、一つおきぐらいに並べたのに、結局、ほとんど取られてしまったのが印象に残っています。
7−8歳で広州の対局では勝てるようになったため、広東省のプロのチームに入りました。プロの七段が3人、初段が5−6人というような構成だったでしょうか。各地にこうしたチームがあり、その中から有望な人が選ばれて北京に行くという仕組みです。
――日本に来るきっかけは?
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| 新人王表彰式でメモを見ながら謝辞を訥々と述べる蘇耀国七段(2003年11月25日) |
広東省のチームにいたことのある敖立テイ(女ヘンに亭)さんというプロ四段の棋士が日本に来ていて、私にも来ないかという誘いがありました。小学校5年のときでした。当時、私は学校の成績が悪く、母は「囲碁をやめて勉強に専念しなさい」と言ってました。中国の小学校は学校の勉強が厳しく、落第もあるほど。小さいころは成績が良かったので、母も「勉強さえしてくれれば…」という思いがあったのでしょう。結局、中国でプロ棋士になる道も考えていた父が、敖さんと相談して日本で碁を勉強させようということになりました。「日本を見学してくるのも悪くない」という判断で、母も日本行きには賛成してくれました。 12歳で来日。もちろん面倒を見てくれたのは敖さんです。すぐに日本棋院の院生となりました。Aクラスに上がってもすぐにBクラスに落ちるといった具合で、ずっとトップクラスにいたわけではありませんでしたが、何とか2年あまりで入段することができました。
(千葉・幕張の)寮では趙治勲25世本因坊に週3回も来ていただいて研究会を開いてもらったこともあります。本当に勉強になりました。生活面では入段後、15−16歳のころに瓊韻社の富田忠夫さん(故人)に大変お世話になりました。
――張栩王座とは縁が深いようですね。
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| 新人王表彰式には張栩王座、小林泉美女流3冠のカップルも祝福に駆け付けた(2003年11月25日) |
院生時代からずっと一緒に勉強し、入段も同期(1994年)ですので、一番気心の知れた間柄です。(張栩王座は)以前から鋭い碁で、リードすれば勝ちきるし、悪くても粘って逆転してしまう。最近、特に磨きがかかった感じで、やはり、勉強量の違いを感じます。 あと、近い世代でよく教えてもらっているのが高尾紳路八段。自分の碁が打てて、安定感もある。何を聞いてもよく知っているし、やはり普段、すごく勉強しているのだと思います。
――その2人に比べてご自身の碁は?
結構、中盤までは頑張るのですが、途中で信じられないようなミスをして崩れることが多い。しかも、いったん崩れると立て直しがきかない。
高尾八段ほど厚くなく、むしろ地が好きという点では張王座と似ているかもしれませんが、私の方は安定感に欠けるようです。何度も同じような負け方をするのは、やはり勉強量が足りないせいでしょう。
――今後の抱負を教えてください。
少しでも強くなって、上位で活躍できるようにしたい。普段、囲碁以外では棋士仲間とフットサルをしたりしてますが、こうした気分転換を交えながら、もっと勉強量を増やすしかないと思っています。年末には毎年、両親が(日本に)来てくれるので、その時にいい報告ができるようにと思っています。
蘇 耀国(そ・ようこく) 1979年9月11日、中国・広東省広州市生まれ。敖立テイ(女ヘンに亭)四段門下。91年来日、院生。94年に入段。同年二段。95年三段、96年四段、97年五段、99年六段、2001年七段。97年棋聖戦四段戦優勝。2003年新人王戦優勝。2003年度の棋道賞・新人賞受賞。 |