オジサンの暗い遊びと見られがちな「囲碁」が、バーチャルな世界で大ブレークしている。インターネット碁会所「パンダネット」には日本、米国を中心に全世界から4万人が登録。常時、数百局の対局が行われている。ネット碁会所としては数少ない有料サービスだが、使いやすさと正確な段級位認定システムが売り物。マンガ「ヒカルの碁」のヒットで子どもにも囲碁が広まっていることもあり、仕掛け人であるパンダネット(東京・千代田)の瀧久雄社長(62)は「会員は30万人まで増やしたい」と鼻息が荒い。
ネットにつなぎ、パンダの形のアイコンをクリックすれば、そこは「会員制囲碁クラブ」。対局ボタンを押すと「対局待ち」の人のコード名と棋力の一覧表が表示される。「今日は少し強い人に挑戦してみよう」。「25手10分」という対局条件をつけて申し込むとOKの返事。「よろしくお願いします」のあいさつボタンを押して、さあ対局開始……。
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「簡単にアクセスでき、自分に見合った相手をすぐに見つけられる。強い人、時にはプロの対局も観戦できる」――。自らアマ7段の瀧社長はパンダネットの魅力をこう分析する。国内でのサービス開始は1996年、会員は日本のほか米国でも1万人を超え、少ない時間帯でも1時間500局程度打たれている。本格的なネット碁会所は無料のところを中心に5、6カ所あるが、会員数は多いところで数千人程度だ。
瀧社長が技術担当役員に最初に出した注文が「パソコン初心者でも簡単に使えるように」だった。実際、最初の画面には「対局」「観戦」などと書かれた大きなボタンがいくつか並んでいるだけ。高齢者などパソコンを使い慣れない人でも対局の申し込みや会話(チャット)が容易にできる。
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| パンダネットの対局画面 |
独自の方式で実施している段級位の認定(レーティング)も売り物。一般に「日本の段級位は韓国に比べて甘い」と言われるように国・地域によって基準が微妙に異なる。ましてや自己申告の段級位は「知らぬ者同士の真剣勝負」には適さない。パンダネットは最初に数局、自己申告の段級位で打ってもらい対戦相手の棋力と結果から、独自の統計学を用いた手法で棋力を判定する。力の差がある者同士が対局する場合は段級位の差で自動的にハンディを決めるが、違和感がないと評判だ。
こうして楽しめる仕組みを作ったからこそ、国内で月額2500円、または対局ごとに250円という料金を徴収しても会員は増え続けている。しかも「無料サービスだとあきらめて誰も文句を言わないが、有料ならばすぐ言ってくる」(瀧社長)ため、これをサービスの向上に役立てることができる。
例えば対局マナーの問題で、形勢が不利になると途中で一方的に中断してしまう人がいる。単なる操作ミスと悪意の中断をどう区別し、取り締まるか。試行錯誤の末、中断対局を事務局が検閲し、悪質な中断を繰り返す会員に対しては登録を抹消するような措置をとる仕組みにした。
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事業の母体となったNKB(東京・千代田、瀧久雄社長)は駅の看板など交通広告の代理店。駅に飲食店情報などを検索できる情報端末を設置して、広く情報を伝達できるインターネットに着目。当初は、韓国企業が展開するオンライン対局事業の日本国内向けの展開を受け持つ形だったが、韓国企業がバブル崩壊で立ち行かなくなり98年に事業を譲り受けた。
国内では会員が1000人を超えるのに3年を要するなど「出足は苦しかった」(瀧社長)。会員数が少なく、対局相手を見つけるのが大変だったからだ。それでもコンピューター投資は惜しまず続け、現在では同時に8000人が接続できる。日本語以外に、英語、韓国語、中国語に対応、国際間の対局も盛んだ。NKBのネット事業としては、2000年に独立させたグルメ検索サービスの「ぐるなび」や、結婚式場検索サービスなどが軌道に乗っているが、パンダネットもこの4月に別会社化、本格的に取り組む姿勢を示した。
日本の囲碁人口は400万人といわれ、ネットの普及を考えれば「会員数を増やす余地は大きい」(瀧社長)。特に最近力を入れているのが子供市場。今春から高校生以下専用の無料囲碁サロン「パンダネット・ジュニア」を開設。現在2000人だが、囲碁マンガの人気を背景に毎週100人ずつ増え続けている。また、囲碁を知らない人たちも呼び込もうと、入門者向けのページも充実させており、既存の会員の8割以上が40歳以上、4割強が有段者というやや偏った構成を是正していく狙いだ。
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瀧社長の夢は「(段級位の)世界標準をつくること」。パンダネットが認定書を発行し、それが世界中に通用するようにしたいという。プロの棋戦では日本は韓国、中国に押され気味だが、日本発の世界標準ができれば「囲碁は日本の伝統文化」を世界に改めて示すことになる。いまの事業はそのための“布石”に過ぎないのかもしれない。(編集委員 木村亮)
※パンダネットホームページ(http://www.pandanet.co.jp/)
[2002/7/16 日経MJ]